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シリアの思い出

 その旅をスタートさせて三ヶ月目。ドイツ、オーストリア、チェコハンガリークロアチアセルビアモンテネグロルーマニアブルガリア、トルコ。以上の国々を経由してシリアに入国した。
 ゲルマン民族による中世のゴシック建築立ち並ぶ中欧の街から、イスラムの香りほのかに漂うトルコのエキゾチックな地方都市。それまでの景色や人種や食や空気の変化は、淡いグラデーションのようだったが、砂埃舞う黄土色の大地にて国境を越えた途端、全てが一変したように感じた。これがアラブ世界、イスラム世界というものなのか。
 ひとことで言う。男臭え。
 私は頭を丸刈りにして口周りにミクロゲンパスタを塗り込みカンタベリーのラガシャと短パンを羽織り、絶叫した。
「シリア、マジたまんねえッス! 俺のパンティの下はもう、限界トロトロっス!」
 シリアに対抗して自分の持てる想像の力限りに男臭くしてみたのだが、どうやらゲイ業界に長く居過ぎた結果、男臭さの解釈がとんでもない方向(しかも多少古い)になってしまった模様だ。
 シリアの男臭さはそんなチクロまみれの人工的なものではない。ガッチリあるいはでっぷりした体格に浅黒く濃ゆい顔立ち。髭率100%。昨日までいたトルコの男たちの一部を凝縮してクリーム層として取り出したような、とろり濃厚な野郎どもなのだ。そんな男たちの多くはガラベーヤという白いアッパッパみたいなアラブ特有の民族衣装に身を包んでいるのだが、これがまた、手足の細さなどのマイナス面は隠してくれるのに胸板の厚さや腹周りの豊かさは強調してくれてさらに素材が下着同然のぺらっぺらという、デブ専ホモにとっては六尺やケツ割れやチャイナドレス以上にソソる有効なユニフォーム。そしてそのガラベーヤの胸元からは、体毛と体臭がとめども無く溢れている・・・
「シリア、マジたまんねえッス! 俺のブラジャーはもう、はち切れそうッス!」
 私のサッカリンめいた叫びは誰にも受け止められることなく、シリア国境の町、アレッポの雑踏の中にかき消えた。
 
 今までの少ない旅行経験からすると、これは南部タイからマレーシアへ移動した時の印象に似ている。マレーシアに入国した途端、イケる男が激増したのだ。タイとマレーシア、地続きの半島で人種ががらりと変わるわけでも無いだろうに。思えばその街も、イスラムが国家宗教のマレーシアの中でもひときわムスリム色の強い場所だった。イスラム教においては同性愛行為が禁じられていることは有名だが、男女間に対しても厳しい。婚前交渉などとんでもない。ある程度の年齢になったら男女間の関係は全くカジュアルなものでは無くなり、男は男だけの世界へと突入する。もちろん、同性愛行為は禁止されたまま。その男空間のなかで彼らの男の性は練りに練られてその濃度を一層高めるに違いない。見る限り、シリアの男の子供は皆、愛らしい美少年的風貌なのだが、今はそんな中性的な彼らも、ムスリム特有の魁!男塾にて鍛えられた挙句、ゴツくて毛むくじゃらでいかついオヤジへと変貌してしまうのだ。
 シリアではそんな暑苦しいオヤジ同士が、手を繋いだり腕を組んだりしている光景を良く見る。
「アチチだ! コニタンとユッコを思い起こさせるほどにアチチだ! 皆さん、ご注目! ここにソドミィがいますよ!」
 日本に限らず、アラブ諸国以外の場所だと思わず指さしてそう絶叫してしまうところだが、つまり「ゲイ」とか「同性愛」とかいう概念が最初っからまるっきり存在しないからこそ、こんなことが堂々と人前でできてしまうということなのだろう。
 というわけで、通行人8割がイケてしまうほどのシリアの男連中を前にして、私はどうすることもできなかった。ささやかな楽しみは、公衆浴場であるハマムにてシリア男の上半身の裸を眺めることと、イスラムのお寺・モスクを見学する際、お祈りを捧げる男たちの尻を視姦することだった。床に上半身をひれ伏す際、ガラベーヤの白く薄い生地に、はっきりと下着が浮き出るのである。シリアの男たちはブリーフ着用率が高い様子だった。私はそのうちアラーの神に祟られるに違いない。一生無職とか。
 
 シリア中部、乾燥した大地を流れる川沿いに発展した、とあるこぢんまりとした地方都市。一通り観光も済んでヒマな私は、いつものようにその町のハマムへといそいそ赴いた。地球の歩き方にも掲載されていた、その町唯一のハマムである。一目見て躊躇した。それまでシリアで体験したハマムのどれよりもぼろかった。灯りもろくについていない。普段なら止めとくところだが、仕方なく入場したのは、それまでヒマげに煙草を吹かしていた一人きりの従業員の熊オヤジが、門の前で途惑っていた私の姿を見つけて慌てて「営業中だ、入れ入れ」と嬉しそうにジェスチャーしてきたからであり、決してそのオヤジが好みだったからというわけではない。
 客はもちろん自分だけ。片隅に蜘蛛の巣が張る部屋で着替えを済まし、裸に腰巻きという姿になると、先のオヤジが私と同じ格好で現れて「マッサージはどうだ?」と訪ねてきた。まるで受付のおばちゃんがそのままステージに上がる場末の温泉ストリップ劇場である。
 埃だらけの薄汚れた大理石に恐る恐る寝そべると、小さなゴキブリの死骸が視界に入る。プレッシャーと下心と値段の安さから安易な選択をした自分を多少後悔した。ゴキブリに気を取られて、マッサージを受けながらも、オヤジの腰巻きの下、自分の左手の先に何やら柔らかいものが当たるのにも気付かなかった。最初からまるっきり何も期待してなかった私は、とっさに「悪いな」と手を移動した。得体の知れない柔らかいものもそれに合わせて移動する。そこでいきなり熊オヤジの腰巻の中に顔を突っ込んだ私も大人げないとは思ったが、ぱっくり開いたお口の上空から、イスラム特有のどす黒いズルムケちんぽがUFOキャッチャーを思わせる速度でゆっくり下降してきた。
 チンポをしゃぶりながらデジャブを感じたが、そういえばシリアに入る前、トルコのアンカラでも似たようなことがあった。しかしあれはハッテン場ハマムの三助によるチップ目的の行為であり、珍味としての味わいは比べるまでも無い。日本では残飯ばかり漁っていた私は、久々のゴチソウに、フェラマシーンと化した。滅多に無いことだが、正直書くと、二回口の中に出された。ごめん。
 全て終わり、摩擦熱でタラコ唇と化した私に、その熊オヤジはひとこと言い残した。
「やっぱり、女のほうがいいな」
 シビレた。女の代用品として弄ばれた俺。その価値があった俺。そのオヤジと自分にウットリして、その残像でシリアにいる間はズリネタには困らなかった。
 
 二週間後。ヨルダンの安宿で久々に日本人と会話した。いきがって髭を生やしているが、アラブ男の中ではどうにもよわっちい華奢で色白な大学生。彼にシリアの印象を尋ねてみた。
「物価も安くていい国だったけど・・・セクハラされまくりでしたよ! 特に○○のハマム! 歩き方にも載ってたから軽い気持ちで行ったら、三助のオヤジにレイプされかけましたよ! 『日本人は男でもすぐにやらせる』って言ってましたよアイツ! 信じられませんよ! いったい誰だよそんな前例作った日本人のホモは!」
 申し訳ない・・・。私は、心の中でひたすら詫びていた。

現代日本の格差社会

ポンチョ佐藤:(河川敷にて)久々に高橋さんのご自宅での対談ですね。


サムソン高橋:段ボールにかこまれて暖を取らなくても生き延びられる季節って、最高! ほら、シートのブルーも青い空をバックに目に鮮やか…梅雨時には荒川の濁流に飲まれりして、チョッピリ大変だったけど。あと、食料も意外と豊富で助かるわ!

 

P:ヨモギタンポポナズナハコベのサラダ、思ったよりおいしいですね。

 

高:これでスーパーやコンビニのゴミ捨て場を徘徊するのも、週に一度で大丈夫。あと我ながらラッキーって思ったのが、近くにハッテン場を発見したの! これで資源ごみの日に空き缶をかき集めてサウナ通いの費用を捻出しなくても済むわ! ほら、あの中州先の葦林の中。野草を採取に迷い込んで、コックリングを付けた全裸男とバッタリ出くわしたときはびっくりしたわよ。思わず「小野田さん! もう戦争は終わったんですよ!」と絶叫してしまったわ!

 

P:今、ゆとり教育世代以降の読者がこのページから音を立てて離れていくさまがはっきり聞こえました。いいかげん現代日本社会とコミットしてください。てなわけで今回の投稿はこれなんかどうでしょう?

 

格差社会を乗り切る心構えは、どんなものでしょうか? 明るく開き直っても、勝ち組から「アウトオブ眼中」だとすると、ただただ虚しい気がするのですが。(岡山/よしだ・40)

 

P:野宿して野草食ってタダでハッテンしてる人を目の前にしてると、そんなの気にしなくてもいいんじゃない? ていう気分にはなりますね。死んでも真似したくはないですが。

 

高:そんなことないわよ。廃材を利用して堅固なおうちをお造りになっている方々を見ると、格差を感じるわ…。まあホモ世界だと、格差社会っつてもほぼ全裸の人しか見ないから判断つかないわね。

 

P:サウナと野外ハッテン場しか行かない高橋さんならではのご意見です。

 

高:コックリングが高い既製品かホームセンターで材料を調達した手作りかとかの違い? でもコックリングを手作りだなんてそれこそ『おしゃれ工房』気分で楽しそうじゃない?

 

P:そもそも底辺の高橋さんが勝ち組のゲイと接点あります?

 

高:わからないわよ。ここのハッテン場は土日は家族連れが来ちゃうから平日昼間が主なサカリアワーなんだけど、そんな時間帯にふらふらこんなとこ来れるなんて無職の貧乏かよほどの金持ちかのどっちかよ。知らずに無職の私がセレブのケツを掘ってたりするかもよ。ジョージ・マイケルだって公園の便所が大好きでしょ?

 

P:ジョージ・マイケルのケツはあんまり掘りたくないですね。

 

高:なんとなくだけど確実にウンコが付着しそうよね。セレブといえば、こないだ岸辺に流れ着いてた週刊新潮読んでたら『セックス・アンド・ザ・シティはゲイに大人気!』という今さらの記事があって、「彼女たちに憧れて六本木ヒルズの一室を借り切ってファッションショーを開いちゃいました!」とかいうゲイの談話が載ってたわよ。なんでもステキなものを見るたびに「ファービュラース!」と言うのが彼らのトレンドらしいわ。ビリビリに破り捨てて炊き出しの燃料にしたけど。勝ち組ってそういう方のこと? ぜんっぜんうらやましくないんだけど!

 

P:そうですね。どう考えても小倉東が脳裏に浮かんでしまいますものね。

 

高:ちょっと!!! 俺そんな固有名詞まで言ってないから!!!

 

P:でもこの人は「勝ち組から無視されるのがむなしい」とかって書いてますね。住む世界が違うんだからどうでもいいじゃない、と思いますけど。

 

高:待って! 今気付いたけどこの方の言う格差社会って、一般的な金の有る無しじゃなくてゲイ社会の「モテる・モテない」の格差じゃないかしら? 「勝ち組からアウトオブ眼中」って、イケメンから無視されるってことじゃ?

 

P:ああ、そうか、なるほど! …どっちにしても底辺の高橋さんはどうお答えを?

 

高:うるせえよ! あの、こないだ知人に聞いた話なんだけど、ガチムチ好きな友人に連れられてガチムチに特化されたバーにうっかり行ってしまったんですって。そのバーでの彼の会話が「いかにガチムチ好きの細がうっとうしいか」に終始してて、ウンザリだったそうよ。その方はありがちな「一生懸命ガチムチになろうとしている中途半端」らしくて…。ガチムチとしてSとかAランクだったらそんなことどーでもいいと思うんだけど、CとかDランクだからこそさらに下をやり玉に挙げて自らの存在証明をしないと不安でしかたないという。考えればゲイ社会、それもガチムチとか野郎系とかって、現代日本の格差社会を先取りしてたわけね。


P:昔、美輪明宏が人生相談で「バラはバラ、野菊は野菊。咲く場所を間違えてつらいのは本人」という、いかにもバラらしい名言をおっしゃってたんですけど、あきらめてブス同士でつるめばいいと思うんですけどね。ほら、この連載でも何度も言ってる「割れ鍋に綴じ蓋」ですよ。

 

高:だから、割れ鍋なのに綴じ蓋嫌いだからこういう人や我々がこんな連載で愚痴をこぼしてるわけで。

 

P:そしたらもうね、野菊でも必死になってバラを目指すというのはどうでしょう?

 

高:野菊は野菊、ブスはブスよ? そんなことが可能?

 

P:とりあえず筋トレやプロテインや暴飲暴食で努力というか無理したら身体だけは何とかなるじゃないですか。髪もド短髪にしましょう。ヒゲも生やしましょう。ブサイクでもそれである程度は緩和されます。縞の太いラガシャツやカンタベリー着ましょう。保護色です。これでとりあえずサウナやバーの薄暗がりだと「良く見りゃブスだけどパッと見はイケてる人」、いや、「なんとなくイケメンっぽい人」にはなれるじゃないですか。

 

高:実際そういう人っていっぱいいるわよね。でもそうやって無理やりイケメンの範疇に入り込んできた元ブスって、現ブスを思いっきり差別しそうな気がするんだけど…。

 

P:根本的な問題は悪化するだけですね…。

ドーパミンとオキシトシン

サムソン高橋:(股間を広げて飛びかかり)淫獣アターック!

 

ポンチョ佐藤:(無言で股間に蹴りを入れる)

 

高:(股間を押さえてのた打ち回る)

 

P:どうしました? 春も近いし、また持病の発情期の発作ですか?

 

高:…貴女は見なかったの? バンクーバーオリンピックの女子モーグル。一か八かの弾丸滑降で華々しく散った里谷多英の素晴らしいファイトにコサック・エアーで敬意を表したのよ。無難な滑りで4位入賞という上村愛子の面白みのないこぢんまりっぷりとは大違い! さすが、ギロッポンのクラブのVIPルームで外人とファックしたと言われる女はアスリート根性のレベルが高いわよ。だいたい愛子ったら、ルックスが良くてアスリートとしても優等生で同じスキーヤーでイケメンの夫がいるなんて、イケてるくせに仕事もちゃんとして無自覚に色気振りまいてるのにいざとなると「いや、大切な相方いるんで~」なんて言ってるゲイをホウフツとさせて、むかつくったらありゃしない!

 

P:女にまで「ルックスが良くて無職じゃない」ってだけで難癖つけるのは、醜いからやめましょうね。そういや、こないだ雑誌で面白い記事読んだんですよ。ほら、最近トップアスリートのセックススキャンダルがありましたよね。

 

高:ああ、佐良直美とキャッシーね。

 

P:最近でもないし、アスリートでもないですから。タイガー・ウッズセックス依存症ですよ。

 

高:クロマティに似てる人だっけ?

 

P:(無視して)タイガー・ウッズだけじゃなくスポーツ選手にセックス依存症が多いという記事で、それは、脳の働きに起因するものなんですって。運動負荷によるストレスがかかると、ドーパミンという神経伝達物質が過剰分泌されるらしくて。ドーパミンって聞いたことあるでしょ?

 

高:高田シャーミンならなんとか記憶にあるわ…。

 

P:(無視して)例えば覚醒剤ドーパミンを大量に発生させる薬だし、躁鬱の躁状態ドーパミンが過剰な状態なんです。人の快楽に深く関わってる物質で、不特定多数との性行動も促進されてしまうんです。ここまでは良く知られてる話なんですが、それとは別にオキシトシンという神経伝達物質もあって、こちらは人と人とを深く関わらせる絆を作るホルモンらしいんです。好きな人と抱き合ったりセックスするとオキシトシンが生成されるんですが、同じ人と繰り返し抱き合うほど分泌されるんですって。

 

高:つまんなさそうなホルモンね。

 

P:だからそんなこと言う人はドーパミン体質なんですよ。面白いのが、ドーパミンが過剰だと、オキシトシンが阻害・抑制されてしまうんですって。だから、性的に奔放な人は次から次へと手を出すけど飽きちゃって、結局深い絆が作れないという。

 

高:なるほど。逆に考えると上村愛子が今ひとつはじけられなかったのは、イケメン旦那とつがっちゃったからなのね。クラブで夫以外の男とファックするくらいの気概があればメダル圏内だったはず…。ソチに向けて愛子の課題と対策は見つかったわ! 私、JOCに連絡してみる!

 

P:単に変質者からのいたずら電話だと思われるから、止めてください。

 

高:ゲイにも上村タイプと里谷タイプっているわよね。ルックス良くてまじめでパートナーがちゃんといてというのと、多少ブスだけど色気があって性的に奔放だってのと。

 

P:まあ、里谷タイプが圧倒的に多いですけどね…。

 

高:それってオキシトシンドーパミンどちらが優勢か、言ってみれば「オキ派」vs「ドパ派」という対立構造でもあったのね。そこで思い出したんだけど、以前この対談でも話題に上げた某エロ系ゲイSNSをこないだ他人様の携帯を借りて初めて覗いたのよ。びっくりしたわよ。世の中のホモどもはこんなにもセックスきちがいばかりなのかと。リトル・タイガー・ウッズだらけよ。「全盛期に比べたら盛り下がってる」とかって言われたんだけど、あれで盛り下がってるのなら、最盛期はいったいどんなだったのか想像するだに恐ろしい!

 

P:ドパ派の高橋さんにそんな感想を抱かせるとは、具体的に何を見たんですか?

 

高:以前片思いしてた人を発見したんでドキドキしながら覗いてみたら、昼間の公園で股間フルスロットルで全裸露出してる画像がどーんと出てきて。「100枚以上撮影したんだけど、他は激しすぎて公開できません」とかってキャプション付だったわね…。

 

P:他の99枚はどんなんだったか気になりますね。

 

高:その方に対してはどちらかというとオキシトシンの方を分泌させてたんだけど、向こうのあまりのドーパミン全開ぷりに、興奮する以前に心が折れたわよ。ホモっていくらでもドーパミン過剰になってしまう環境なわけよ。例えばノンケの男だってたくさんの女とヤリまくりたいってのは本音じゃない? でも、タイガー・ウッズレベルじゃないとそういった欲望はかなえられないわけ。だから、たいていの普通の男は自分と見合った女とつがって「つまんないなー、もっといろいろやりたいなー」と思いながらもその平凡な相手と平凡なセックスをやり続けてるうちにオキシトシンが分泌されて落ち着くわけよ。だけどホモはセックスに関しては手軽だから、オキシトシンが生成される前に飽きちゃって次から次へとヤリまくってドパっちゃうと。

 

P:そういや昔、パートナー以外とセックスしないって人に「飽きません?」って質問したら、「飽きてからが面白い。それが本当のセックスなんだ」なんて回答が返ってきて「うわ、嘘くせー」なんて思ってたけど、ドーパミンよりオキシトシンが優勢になってからが楽しいってことなのかも。たいていのホモはドパどまりで、なかなかオキの領域まで辿りつけてないですからね。

 

高:つまんない相手でもガマンしてやり続けたら、新しい快楽が見つかるかもしれないのね。ただ、私たちにはそもそもそのつまんない相手さえいないんだけど…。

 

P:それじゃ、あったかくなったとこだし、つまんない相手探しに、掲示板で集合かけて公園の便所で全裸露出してきます!

 

高:私もつまんない相手探して、台東区のサウナをハシゴしてみるわ!

バルセロナにて

 ゲイであることをエンジョイしているリア充オカマどもに恨みを抱くのが常の私が、スペインのゲイ・フレンドリーなリゾート・シッチェスにて、こともあろうにおだやかな気分になったのはなぜだろう。
 シッチェスでゲイの存在は、ほとんど空気のようなものだった。ノンケvsゲイという対立構造がまったく無いためである。「ボクらのハッピーゲイライフ!」(注:筆者は日本のゲイ情報について10年ほど時が止まったままです)と声高にアピールするクソオカマの中にあっていつも徹底的にスルーされる私は、「私だってここに存在しています!」と、イカニモへの誹謗中傷のシュプレヒコールでアピールするしかなかった。しかし、シッチェスでゲイは空気。イカニモも空気。いつも空気のブスも当然空気。まあ爽やかな空気と屁のような空気の違いはあるが、同じ空気どうしで肩肘張らずにリラックスできたのである。
 なぜそんなことを分析しているのかと言えば、今現在の私が、熊系クソオカマのまっただ中で、完璧に空気と化していたからだ。
 シッチェスに行った日の夜、私は解放的な気分のままうっかりNEW CHAPSというバーに行ってしまった。バルセロナのゲイエリアとはちょっと離れた、新市街にポツンとあるレザー&熊系バーである。シッチェスから引きずったいい旅夢気分のまま大山のぶ代ばりのスマイルを浮かべスキップで訪れた私は、スペイン旅行何度目かはもう覚えていないが、またもやスキップ体勢ののまま凍りついてしまった。
 店の前に大量のイカホモ&熊系が山のようにたむろしていた。数日前の熊系バーBacon Bearでもまったく同じ体験をしたが、ここは周りが住宅街なのでそのイカホモ熊軍団はひときわ目立つ。犬を連れて散歩中のおばちゃんが不思議がって熊軍団に語りかける。
「この騒ぎは何? ヤクザ組長の出所祝い? そのわりにはどことなくファンシーでフェミニンな雰囲気が漂っていて不気味だわね……」
「ひゃだ、あたしたちゲイなのよ! オ・カ・マ! 野郎っぽい男が好きだから身体もヒゲも無理して作り上げてるけど、根っこの乙女は隠しきれなくてにじみ出ちゃうのよね~。おばちゃんも飲んでく?」
「嫌よ! 気持ち悪い! ほら、うちのモモちゃん(犬)もすっかりおびえてるじゃないの!」
 以上の会話は100%想像だが、そんな感じで通りすがりのおばちゃんにもフレンドリーなバルセロナの熊系オカマたち。シッチェスでもそうだったが、スペインのゲイバーは誰にでもウェルカムな雰囲気のようだ。しかし、あの、それだったら、すぐ目の前にいるブサイクな東洋人にもフレンドリーにしてくれないかな……。
 本日は偶然にも半額デイで、混んでいるのはそのせいらしい。目の前にはおそろいで色違いのラガシャツを着た熊系親父と若いイケメンの二人がいて、ハグしたりキスしたりしている……ってどっかで見たなこの景色。と思ったらBacon Bearの半額デイにて見かけたカップルだった。お前らは半額デイばかり狙ってイチャイチャしてんのかこの貧乏人! バーの壁には素人が書いた熊親父の精密画が値段付で飾られている。ド下手がクリエイター気取りか! 才能の無いオカマにありがちだな! 自分の描いた絵でオナニーするのは中学生までにしとけ!
 ひとことも発しないながらも脳内ではありとあらゆる罵詈雑言を繰り広げ、シッチェスでおだやかになった自分が、店を出る頃にはすっかりいつもの殺人鬼の顔に戻っていた。

 

 バルセロナには10軒ほどのゲイサウナがある。前回行ったBrucはフケ専だったが、そういう珍味や場末をのぞくと次の代表的な三つに集約されるらしい。若者中心で一番人気のCasanova、幅広い客層と噂のCorinto、そしてガチムチ、熊系、親父が中心のCondal。バルセロナ四日目の本日は躊躇することなくCondalに行くことにした。
 旧市街であるゴシック地区の入り口あたり、入り組んだ路地にCondalはあった。表は地味でフロントも小ぢんまりだが中は清潔で設備も整っていて、広い。大きなジャグジー、ケツ掘りブランコも完備されたダークエリアもある。誰もいなかったのでケツ掘りブランコを初体験してみた。全裸大股開きの姿でひとりぶらぶら揺られていると、なんだか子宮の頃に戻ったよう……。
 ダークルームには誰もいなかったが、平日の昼間にしては人が多い。客層は幅広いが、やはり熊系やガチムチが目立つ。年代も20代から60代までと幅広いが、30代から50代が中心だろうか。マドリードの熊専サウナPrincipeほどがっちがちの熊中心というわけではなく、館内はPrincipeの倍の広さがあるため、こちらのほうが居心地がいい。
 そしてPrincipeとCondalの違う点。この私が、このブスが、わりかしモテモテなのである!!!!!
 ジャグジーの泡の中でぼんやりしていると、ずんぐりした親父がそばに寄ってくる。バーでサンミゲルを飲んでると、毛むくじゃらの熊男がにじり寄ってくる。廊下をうろうろしてると、スキンヘッドのガチムチが後を追いかけてくる。
 なんで、これがマドリードで起らなかったのか……。不思議なことだが、ハッテン場のモテと日照りは集中して発生し、いい具合に分散するということがない。
 Principeだったらいずれも自分から積極的に乗っかってるタイプだったが、モテると自分のハードルも上がってしまう。「もっといい男が出現するはず!」とあさましい気持ちでさらに徘徊していると、いつものパターンだと最終的に誰も見つからず「妥協しときゃよかった!」と血の涙を流すところなのだが、今回は二枚目口ヒゲで鍛えられたバランスのいい固太り体型という、個人的にはスペインに来て一、二を争う超イケ中年と目が合った。なんですかこのサウナは!
 どちらからともなく目線でたぐりながら、キャビンへと赴く。個室の中でプラカードを持った野呂圭介が待ち構えているのではないかという不安を抱いていたが、そのようなどっきりカメラ的仕掛けはなかった。親父がバスタオルを取る。
 ぎょえええええええ!!!
 今までの統計的に小ぢんまりしたスペイン人のモノを、たったこの一本でその平均値をぐっと水準以上に持ち上げてしまうような巨大な陰茎が出現したのであった。
 斜め45度に屹立したそれは、三つの拳で握ってもさらに亀頭がこんにちはしてしまう感じであり、実際自分の手でノギス計測してみると、広げた親指と中指でも収まりきれず5cm以上はみ出していたので、たぶん30cm近く、25cmは超えていたのだろう。
 私は巨根にこだわりはない。短小も大好きだ。というか、ちんぽならまんべんなくたいてい何でも大好きだ。しかしながらそんな私でさえくわえるのも忘れほれぼれ見入っていると、親父はジェスチャーで語りかけてきた。
「ケツに入れさせろ」
 残念ながら無理です!

 

 結局その親父とは商談不成立となり、徘徊に戻った。マッチョ、ガチムチ、熊デブ、親父。こういった系統が好きな人間には見目麗しいハッテン場である。中でも思わず目を惹かれたのが、立派な太目体型の白髪のヒゲとメガネで典型的な白熊親父……って、こないだフケ専サウナのBrucでデキたおっさんじゃねーか!
 お互いぎこちなく挨拶をする私たち。向こうはこっちを多少気にしてる風だ。いや、まあ、デキてもいいんだけどさ……。ハッテン場でデキた相手にわずか数日後鉢合わせるというのは、実に気まずいもんである。
 どことなく身動き取れない感じで廊下のベンチに腰掛けてると、30代のガチムチが横に来た。スキンヘッドに近い丸坊主、フルフェイスのヒゲ、鍛え上げられた筋肉デブ。イカニモが多いこの場所でも際立ってイカニモ。たぶん今いる客の中では一番本誌受けする物件だろう。
 ベンチの後ろは小さなダークルームだったんでちょっと覗いてみると、イカニモが付いてきた。個人的にイケるというよりも、こんなモテスジにアプローチされるというのはめったにないことなんで、かたじけないと感謝の気持ちでちょっと手を出してみる。先の親父とは逆で、ちんぽは必要以上に小ぢんまりしていた。いやしかし先述したように、私は短小も大好きだ。縮こまったハムスターのごとき手触りもなかなか味わい深いではないか。と、右手ではむはむしていると、先の白熊親父がダークルームにやってきた。
 気まずい。思わずさっと手と身を引いてしまうと、ちんぽ故に拒否られたと思ったのか、イカニモは暗い表情で去っていった……。いや、違うんだけど、ご、ごめん……。
 バーにて本日二本目のサンミゲルを飲んでると、白熊親父が隣に座ってきた。
「今日はいいことあった?」
「いや……(おめーのせいだよ)、そちらは?」
「あ、南米から来たっていうナイスガイとデキたよ」
 ふざけんな!
「本当は今日は君を追いかけてきたんだけど」
 へ?
「君の好みからして、今日あたり80%の確率でここに来てると思ったんだ」
 なんという推理力の高さ。ビンゴである。
「良かったら今から家に来る?」

 

 これだけ海外をウロウロしているというのに、島津ゆたかばりにサウナで会ってサウナで別れてばかりで、現地の男の家に招かれたことがほとんどないのはブスという実力のせいだろうか。そういや日本国内でさえ島津ゆたかだった。しかしまあ、そういった経験がないわけでもない。
 そんな日本海外ひっくるめて数少ない経験の中でも、白熊の家はダントツだった。今まで招かれたゲイの家の中である意味ダントツだったのは、隅田川沿いのブルーテントだったが、それとは真逆でダントツだった。金持ちと断言はできないが、相当なアッパークラスだろう。築100年近いというクラシックなマンションの、何LDKあるんだかわからない一室。20畳は超えるリビングの壁には西洋東洋の古美術書が並び、XJAPANのTOSHIならば「紅だああああああーーー!!!」と絶叫してしまいそうな赤と金で統一されている。と書くと中華風の悪趣味みたいだが、赤といっても正確に言えば「深緋」で、金は遺跡から発掘されたような鈍い輝きで実に趣味がいい。家具は、チベットやネパールから持ち帰ったものや、スペインの古都トレドからのアンティークだという。「フランフランで揃えてみたの」「まあステキ」といったそこらのゲイとはレベルが違いすぎる。当然ダイソーとCAN★DO中心の私などは比較対照にならない。
「何平米あるんですか?」「150くらいかな」
「ひとりで住むには広すぎない?」「まあ、昔結婚してたしね。今はハウスキーパーにまかせてる」
「結婚って、相手は?」「男性」
 知らなかったが、スペインは同性婚が認められている国のひとつだった。
「そういやそいつとは君みたいな感じで知り合ったな」

 

 この後も旅は半月以上続く、と伝えたら「しばらくここにいたら?」と熱心に言われたが、結局断ってしまった。
 そういや今回の旅の目的は「金持ちのイケメンと結婚」であり、これから行くパリへの航空券もバンコクでのストップオーバーも破棄して三週間この親父と一緒に住めば冗談ではなくマジでそういったチャンスも生まれたかもしれないが、正直身分の違いと格差にビビってしまったのと、「いい男と豪華な家で同居」と「自由にひとりで貧乏旅行」の二択を迫られて、自分は後者を選択してしまったのだ。たぶん私は死ぬまでこういう人生なのだろう。
 「パソコンなんていう悪魔の箱は使わない」という白熊からは別れ際に電話番号をもらった。果たして、私がバルセロナに再び来ることはあるのだろうか。
「日本語でお別れの言葉は知ってる。サヨナラだろう?」
「その通り」
「それはグッドバイみたいにただのお別れの挨拶なのか? それともシー・ユー・アゲインの意味もあるのか?」
「ただのお別れだ」
「日本語でシー・ユー・アゲインはなんて言うんだ?」
「また今度、かな」
「マタコンド、か。いい言葉だ。スペイン語にちょっと似ている。それじゃ、また今度」

 

マドリードのゲイバーにて

 ショック! ショック! ショック!
 これ以上だと著作権承諾が必要なのでここまでにしておくが、とりあえずショックなのである。何がショックなのかというと、ピンクレディーの振り付けをしていてもまったく誰にも見向きされないのだ。嫌われているというよりも、存在感が無い。まさしく、透明人間、現る現るである。
 そんな無職中年日本人の透明人間が現れてしまったのは、HOTという熊系バー。皮肉にも、店名に反して私の周りだけ氷点下のブリザードが吹雪いている。

 

 マドリード初日。まったくモテなかったサウナからゲイタウンのチュエカの宿に戻り、股間用キンチョールとともに買った1ユーロのスペインワインを泣きじゃくりながらちびちび飲んでいると、酔いとともに弱った気分が復活してきた。わざわざスペインまで来てるんだから、サウナでモテなくて安酒をあおりながら引きこもるなどという、いつも日本の赤羽でやってることと同じことやってても、意味なくね? またひどい目にあってもそれはそれで人生経験じゃね?
 人生経験。私はひどい体験をするたびに呪文のようにこの言葉を唱えるが、そのような経験をしても中年ゆえ、もう成長の余地など残されていないことにはあくまで目をつぶっている。
 「人生経験! 人生経験!」
 叫びながら宿を飛び出した私は、一瞬にしてマドリードゲイシーンのど真ん中に放り出された。おりしも土曜日の夜11時というプライムタイム。ラガシャツ・短パン・坊主・ヒゲといった無数のイカホモ軍団に囲まれ、先ほどの勢いは一瞬にして鎮火。交尾中に冷水をぶっ掛けられた野良犬のようにブルブル震え、夜のチュエカを恐怖で数ミリリットルほど失禁した内股で進んでいったのであった。
 ちなみにスペインだが、全般に時計が3時間ほどずれている。時差の話ではなくて、生活時間帯が遅いのだ。例えば昼のレストランが開くのは早くて1時で、昼飯タイムはだいたい2時から4時。夕飯は9時から深夜12時といったところだ。だもんで週末の11時だとまだまだ宵の口という感じ。といっても朝は普通にみんな出勤しているので、いったいいつ眠っているのかと思うのだが、そうするとシエスタ(午睡)というスペイン特有の風習が納得できるのであった。

 

 さて、どこに足を運ぶか。事前に調べたところ、ここチュエカに熊系バーは二軒ある。ひとつはその名もBEARS BARといい、小ぢんまりとしていてスタッフが優しく迎えてくれるという評判だ。もうひとつはHOT。わりと大規模で、地下にはクルージングスペースもあるという。即座にHOTに行くことにした。ハッテン空間に心奪われたというわけではない。優しいスタッフのいる小ぢんまりとしたアットホームなバー。そんなもん、モテなくて現地語がしゃべれないブスぼっち東洋人には単に胃が痛くなるだけである。友達ゼロの自分を可哀想に思って声をかけてくれたクラスの人気者に混じって弁当を食べた小学校の遠足と同じレベルの拷問に違いない。って、頼むからマドリードゲイシーンはこれ以上ボクの学生時代のトラウマを呼び起こさないで!

 

 そのHOTはあらかじめ昼間に場所を確認しておいた。チュエカの目立つ通りに面してわかりやすい。イカホモの群れにビクビクしながらそこを再び目指した私は固まった。イカホモの中でもさらに厳選された、ファンシーヤクザのようなイカホモ中のイカホモ数名がまるでドアマンのように店の前で固まり談笑しているのである。恐怖のあまり、さらに数デシリットルほど失禁した。この状況は、自意識過剰気味のロンリー異国人ブスには拷問以外の何物でもない。

「人生経験!」あまりのプレッシャーにきびすを返して宿に直帰しようと思ったが、意を決していつもの呪文を絶叫し、清水の舞台から投身自殺する勢いで息を止めて店内に突入。未だにいちいち自分を鼓舞しなければゲイバーに入れない私だが、燃え盛る火災現場に突入する消防士の気分になるのは初めてだ。

 

 ベア系ナイトの告知ポスターに囲まれたドアを開ける。店内は30畳ほどか。広いが、海外のバーでは広すぎるほどではない。驚くのは人の多さ。100人ほどいるんじゃなかろうか。土曜のこの時間帯はやはり混み混みなのだ。客の体型の太ましさも加わって、動く余地がないほどギッチリだ。カウンターが遠い。この人口密度ならたぶん飲み物注文しなくてもすみっこで素知らぬ顔をして居られそうな気がするが、いちおうカウンターまで肉の海を泳いでいく。
「セルベッサ・ポルファボール」
 スペイン語でビール・プリーズという意味の言葉をかける。4ユーロ。思ったより安い。ガッチリイケメン店員が無言で小瓶を渡してくれる。カウンター内の壁に貼られたスペイン語をわずかな知識で訳すると、日付が変わるまではハッピーアワーで、一杯目のレシートと引き換えにもう一杯同じドリンクがいただけるらしい。恐怖と緊張で最初の瓶を一気に飲み干してレシートを渡すと、確かに同じビールを手渡された。
 先ほどのワインとの相乗効果で多少緊張がほぐれ、客を見る。入った直後は、イケメン熊ばかり! ブスは生きる価値が無いと言うの! などと壁に向かってブツブツつぶやいていたが、落ち着いてみると、確かに半数は上レベルのファンシーヤクザだが、残り半数はブス、もとい、普通っぽい人々である。しかしながらみんな仲間内でワイワイと談笑していて、スペイン語がおぼつかない私は何もすることができない。もちろん、向こうから声がかかることもない。
 道端で立小便するときについ電信柱や壁を探してしまうように、まったく無力の私は必死にカウンターにしがみついていた。セルベッサ・ポルファボール以外の言葉をスタッフと交わすこともないが、とりあえずカウンターに寄りかかっているうちは客として存在可能。しかし、ドリンクを求める客が次から次へと来て、それに押し出される形で私はナチュラルにカウンターの端からトイレの前に移動した……。


 ある意味すごく落ち着く位置で改めて場内を見回すと、ひとつのことに気付かされる。
 理想的な素晴らしいイケメン熊がいる。ジャンルとしては熊の範疇に入るが、中の下といった微妙なヒゲデブもいる。そして、自分含めてブスもいる。ジャンル的には熊や親父主体ながらも様々な男がいるこの場所で、目を惹かれるイケメンは同じくイケメンと談笑している。微妙熊は微妙熊と。そして、ブスはブスと一緒につるんでいるのだった……。
 ブスにしか手を出されなかったサウナに引き続き、初日にして私は思い知った。イカホモ濃度は上野や二丁目や中野以上、ゲイシーンが成熟して華やかなマドリードは、東京の新宿区や台東区と比べても負けない、強固なホモ・カースト制度が確立しているのだ。
 そこで私は今のところ、冒頭のような透明人間と化していたのである。せめて遠足の弁当でイジメられっ子グループが固まるように、ブスとしてブス・グループに受け入れられてもらいたいのだが、言葉もわからない一人の東洋人はまったく相手にされない。今なら窃盗、強姦、失禁などしても気付かれないのではなかろうか(失禁はすでにしてるけど)。小さい頃、「もしも透明人間になれたら……」なんて想像をしたこと、読者のみんなにはないかな? そんな幼い頃の夢が、今現実に! 夢をかなえたい人は、マドリードのゲイバーに来るといいよ!(ブス限定)
「ちょっとどいてくれない?」ピンクレディーを踊っていると、トイレに行きたそうな微妙熊にたぶんスペイン語で声をかけられた。やっと私の存在が認められた瞬間である。人間ではなくて、障害物として。


 ふと気付いた。スペイン語がしゃべれなくても、ボディ・ランゲージは世界共通語じゃん? そう。私はピンクレディの振り付けに夢中になるあまり、すっかり地下にあるというクルージングスペースの存在を忘れていた。人が多すぎるとかえって友人知人の目が気になるのか、端にある階段から下りていく人は少なかったのだ。
 ビールを片手に階下の洞穴へと向かってみる。10畳ほどだろうか。照明は消されていて、灯りは流れているベア系ビデオだけだ。バー部分ほどではないが、人は多い。絡んでいるカップルは三組。それこそスペインに来るきっかけとなった、イケ熊同士だ。まるでネット画像やビデオから抜け出たようにペッティングしている彼らは、絡んでいるというよりも、ブスに見せびらかすようにイチャイチャしているという感じ。常連まるだしで話しているのは微妙熊たち。そして、その間を縫うようにブスがお酒片手に虚しくウロウロと徘徊……。ここでも明確なカースト制が……。
 ふと気が付くと、人はまばらになっていた。寒々しいハッテン空間の片隅で私はヨダレを垂らしながら寝入っていた。ワインを1本空けた後のビール2本で、すっかり熟睡してしまっていたのだ。ちんぽと乳首とアヌスをチェック。当然、誰からも手を出された痕跡はない。
 酔いと寝起きでよろめきながら私は店を出た。日本のゲイバーならいくらほっとかれても最後に「おあいそお願いします」「ありがとうございました」の会話ぐらいはあるのだが、ここはキャッシュ・オン・デリバリー制なのでそれもない。3時間の滞在で私が交わした会話は、「ビールちょうだい」「お前どけ」だけだった。


 午前2時のチュエカは、イカホモを主体とした人の群れでまだまだ賑やか。そんな中、「人生経験……」とつぶやきながら宿へと千鳥足で向かう私だった。